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思考の三分法│世界観・ストーリー・ドラマ

「TENET テネット」予告編 動画マーケティング
この記事は約10分で読めます。

映画作品は「世界観・ストーリー・ドラマ」この3つの要素で成立しています。この「三分法」は、他のコンテンツやサービスなどビジネス全般に広く当てはめることができる、非常に優れた「思考のモノサシ」だと私は思っています。

今回は映画『TENET テネット』予告編を足がかりに、「世界観・ストーリー・ドラマ」とは何か考えます。

『TENET テネット』予告編

まずは最近公開されたクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』の予告編をご覧ください。

この予告編には、極端にいえば「世界観」しかありません。「ストーリー」も「ドラマ」も、ここではほとんど紹介されていません。これは映画の予告編ではかなり特殊なことです。

予告編では、「ストーリー」や「ドラマ」のさわりを多少なりとも紹介するのが普通です。なぜなら、そのほうが観客の興味を引くことができるからです。しかし、『TENET テネット』の予告編は、あえてそれらを隠して「世界観」を強調しています。

これは、クリストファー・ノーラン監督作品だからできることです。

クリストファー・ノーラン監督は、オリジナル脚本による大作映画を何本もヒットさせてきた、当代随一といっていい映画監督です。映画好きならその名を知らない人はいませんし、そうでなくとも「ダークナイト」「インセプション」「インターステラー」といった映画のビジュアルを見たことがない、評判を聞いたことがないという人は少ないでしょう。

これはどういうことかというと、「クリストファー・ノーランの最新作」「ダークナイト監督の最新作」という言葉だけで、人々が何らかのイメージを抱くということです。簡単にいうと、このイメージこそが「世界観」です。

ですから、すでにあるその「世界観」を呼び起こし、そこに新作の「世界観」を少し付け加えるだけで(第一弾の)予告編が成立しているのです。

世界観とは何か

世界観=イメージ

繰り返しますが、「世界観」とは対象に抱くイメージ(印象)のことです。イメージは、インプットされた情報によって形成されます。

「クリストファー・ノーラン監督」のイメージは、過去の作品を見た経験とか、メディアによってもたらされたビジュアルや言葉によって作られています。

世界観=ブランド

お気づきのように、これは巷で言われる「ブランド」「ブランドイメージ」と同じものです。また、「先入観」「バイアス」という概念とも、本質的には同じものです。ある対象に抱くイメージがポジティブかネガティブかによって、用いる言葉が違うだけです。

作品ごとの世界観

先ほど“新作の「世界観」を少し付け加える”と書きましたが、では、個別作品の「世界観」はどうやって作られるのでしょうか。

個別の映画作品で「世界観」を作るのはロングショットです。SFやファンタジー作品では、映画冒頭に必ず街を俯瞰するロングショットが入ります。これから始まる物語が一体どんな世界で展開されるのか、そのイメージを観客に示すためです。

現実世界とは別の世界で展開する物語は、まずその「世界観」=イメージが理解できないと、観客はすんなり物語に入っていけません。

『TENET テネット』予告編のロングショット

『TENET テネット』予告編のロングショットには、奇妙な印象を受けるカットがいくつかあります。たとえば1:10あたりの船のショットです。

「TENET テネット」予告編

船が立てる波に注目するとわかるのですが、このショットはいわゆる「逆回し」です。

「逆回し」は昔からある単純でありふれたイフェクトですが、にもかかわらず奇妙な感じを受けるのは、動きが大きくない(あるいはスローモーションの)ロングショットを逆回しにしているため、にわかには「逆回し」ショットであると認識できないからです。

この「逆回し」が醸し出す奇妙な感じは、映画タイトルやキービジュアルともつながっています。「TENET」という綴りは逆から読んでも同じです。また、予告編動画のサムネイルにもなっているキービジュアルは、上下前後を逆さまの主人公画像とタイトルロゴを組み合わせたものです。

この「逆回し」はさらに、クリストファー・ノーラン監督のブランドイメージにもつながっています。なぜなら、クリストファー・ノーラン監督の出世作「メメント」は、まさに「逆回し」をテーマにした映画だったからです。

ちなみに、「メメント」の「逆回し」は、主人公の「病気」とリンクしています。『TENET テネット』の「逆回し」は、おそらく主人公の「特殊能力」とリンクしています。「病気」も「特殊能力」も、主人公のキャラクターを決定づける「属性」であり、後述する「ドラマ」の基となる設定になっています。

ストーリーとは何か

ストーリー=言動

「ストーリー」とは筋(スジ)のことであり、スジとは登場人物の言動のことです。簡単にいえば「誰が何をするのか」ということです。

ストーリー=5W1H

ですから、「ストーリー」をビジネス用語でいうと5W1H(When,Where,Who,What,Why,How)ということになります。

冒頭で『TENET テネット』予告編には「世界観」しかないと書きましたが、正確に言えば「ストーリー」がまったくないわけではありません。相手役のセリフによると「主人公は第三次世界大戦を防ぐための任務を遂行している」ようです。

しかしこれは、5W1Hで考えると、What=任務を(遂行している)、Why=第三次世界大戦を防ぐため、このふたつを曖昧に匂わせているだけです。

任務が具体的に何をすることかはまったくわかりませんし、予告編で断片的に見せられる映像も、主人公が「何をしているのかわからない」カットが意図的に選ばれています。

世界観とストーリーの違い

「世界観」はイメージですから、抽象的で曖昧です。一方「ストーリー」は人の行動ですから、具体的ではっきりしたものです。「世界観」は言葉で説明できない部分が大きいのですが、「ストーリー」は言葉に置き換えることが容易です。

映画作品の「世界観」はロングショットで表現されると書きましたが、それに対して「ストーリー」はミドルショットで語られます。ぐっと人物に寄らないとその言動を見せることができないからです。

『TENET テネット』予告編のミドルショット

ただ『TENET テネット』予告編のミドルショットでは、前述したように、主人公が「何をしているのかわからない」カットが意図的に選ばれています。

「メメント」の予告編と比較するとその極端さがよくわかりますが、『TENET テネット』予告編には、主人公がしゃべるカットも殆どありません。

主人公がしゃべるのは、1:00の「核戦争?」と、1:50の「これから起こる」という短いカットふたつだけです。0:46にも「この任務の内容を知りたい」という主人公のセリフがありますが、これは別のカットに被せられています。

『TENET テネット』予告編が「ストーリー」すなわち主人公の言動をあえて曖昧にしているのは、「世界観」だけで予告編をつくるというコンセプトに基づいた選択なのだと思います。

商品やサービスで考えると

こうやって考えると、『TENET テネット』予告編はAPPLEなどブランドイメージが確立した企業の広告に似ています。

企業の商品やサービスでいえば、その具体的な機能や内容が「ストーリー」に当たるといえるでしょう。

ブランド力が弱い新興メーカーは、商品やサービスの新しさや多様性をアピールするしかありませんが、すでにブランドイメージが確立している企業は、「ストーリー」を全面に出すより「世界観」を強化する方向の広告を打ちます。そのほうが、すでに数多存在するファンの心に刺さるからだと思います。

ドラマとは何か

ドラマ=感情に訴える仕組み

「ドラマ」とは劇のことであり、簡潔にいうと、感情に訴える仕組みということになると思います。

ストーリーとドラマの違い

たとえば、登場人物AとBが相思相愛では「ドラマ」になりませんが、AがBもCも愛しているとなると「ドラマ」になり得ます。「AがBとデートする」というのは「言動」ですから「ストーリー」要素ですが、後者の設定があると「ドラマ」要素にもなります。なぜなら、その設定によって、登場人物に心理的な葛藤が生まれるからです。

心理的な葛藤こそ喜怒哀楽の源です。葛藤が深まれば怒りや哀しみが募りますし、解消されれば喜びを生みます。ですから、「感情に訴える仕組み」とは、言葉を換えると葛藤とその解決とも言えます。優れた脚本家や演出家は、これをうまくコントロールして作品を作ります。

映画作品の「世界観」はロングショット、「ストーリー」はミドルショットで描かれると書きましたが、「ドラマ」はクローズアップで描かれます。人の心理・感情は表情やちょっとした仕草にあらわれるからです。それをカメラで表現するために「発明」されたのが、クローズアップです。

『TENET テネット』予告編のクローズアップ

前述しましたが、『TENET テネット』予告編から読み取れる「ストーリー」は、「主人公は第三次世界大戦を防ぐための任務を遂行している」というものです。では「ドラマ」はどうでしょうか?

「ドラマ」もやはり匂わされています。なぜなら、主人公がその任務を「強いられている」からです。主人公が「強いられている」ことは、相手役たちが主人公に投げかけるセリフからわかります。

「強いられる」ことは葛藤を生みます。葛藤は感情を生みます。感情は主人公のクローズアップで描かれます。

主人公がなぜ任務を「強いられる」のかというと、「特殊能力がある」からです。これは前述したように「自分の属性のせい」と言い換えることもできます。このように考えると、主人公を演じる俳優ジョン・デヴィッド・ワシントンが黒人であることにも、象徴的な意味があるように思われます。

『TENET テネット』本編の内容を予想する

ここで、今年9月に公開される『TENET テネット』本編のラストを予想してみましょう。「世界観・ストーリー・ドラマ」の「三分法」で考えると、「ストーリー」の結末と「ドラマ」の解決は、推測することが可能です。

「ストーリー」の結末は、主人公が任務を全うできるかどうかです。「ドラマ」の解決は、主人公が強制から逃れられるかどうかです。つまり、組み合わせだと以下の4つということになります。

  • A:任務を全うし強制からも逃れる
  • B:任務を全うするが強制からは逃れられない
  • C:任務を全うできないが強制からは逃れる
  • D:任務を全うできず強制からも逃れられない

もしこれが、クリストファー・ノーラン監督の原点となった旧007シリーズなら、答えは間違いなくAです。任務を終えたボンドが、上司からの連絡を無視して恋人とイチャつくのは、お決まりのパターンです(ボンドの任務は仕事ですから、強制とはちょっと違いますが)。

クリストファー・ノーラン監督の「世界観」は、超単純化していえば「旧007シリーズの心理的なリニューアル」だというのが私の見立てです。ダニエル・クレイグの新007が「フィジカル」なリニューアルであるのに対して、「メンタル」なリニューアルだといえばいいでしょうか。ボンドに葛藤はありませんが、彼の映画では任務より主人公の葛藤に重心があります。

それを前提に考えると、『TENET テネット』のラストはBか、AとBの中間「任務を全うするが強制からは逃れられたかどうかわからない」になると、私は推測します。

はたしてどうか、公開後に検証したいと思います。

まとめ

「世界観・ストーリー・ドラマ」とは何か、改めて整理するとこうなります。

世界観ストーリードラマ
抽象的なイメージ
(印象)
具体的な言動 
(機能)
心理的な葛藤と解決
(感情に訴える仕組み)

この三分法は、映画の分析だけではなく、他の多くのコンテンツやプロジェクトにも応用可能だと私は考えています。

一例をあげると、昨今「ソリューション」という言葉がビシネスでよく使われますよね。意味は「ビジネス上の問題や課題を解決する方法や取り組み」だそうですが、実際のところ雰囲気で使われていることも多いように思います。

これなんかも「思考の三分法」を取り入れると理解しやすくなると思います。「ソリューション」というカタカナを使うと、といかにも具体的な問題の解決を指しているように感じますが、実際はイメージや心理的な意味で使われていることが多いように思います。

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