起承転結の意味とYouTube動画の構成分析

YouTube動画制作
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起承転結という言葉は、普段よく使われる割には定義が曖昧です。ここでは、動画構成のモノサシとして実際の制作で使えるよう、起承転結をできるだけ簡潔に定義してみたいと思います。さらに、それを使って実際にYouTube動画の構成を分析してみます。

起承転結とはなにか

映画の起承転結

起承転結はもともと漢詩の構成法です。それが他のジャンルにも当てはまるんじゃないかということで、広く使われるようになったのでしょう。物語のあるマンガ・小説・映画・ドラマだけではなく、プレゼンやスピーチなど、鑑賞に時間経過を伴う表現一般に使えそうな感じがしますが、いざ使うとなると最初に書いたように定義が曖昧で、結局あまり役に立たないことが多いように思います。

昔読んだ野田高梧の「シナリオ構造論」では、起承転結はそれぞれ発端・ヤマ場の連続・最大のヤマ場(クライマックス)・結末と説明されていて、なるほどと膝を打った記憶があります。ちなみに同書では起承転結を能の序破急とも対比していて、起承が序、転が破、結が急に当たるとしています。

野田高梧は小津安二郎監督と「麦秋」や「東京物語」のシナリオを書いたことで有名な名脚本家です。「シナリオ構造論」は、古い本なので引用される映画は古いのですが、シナリオについて実作者が論理的に分析した数少ない本のひとつであり名著です。

以下では「シナリオ構造論」の定義を足がかりに、時間経過を伴う表現一般にモノサシとして当てることができるよう、起承転結を私なりに再定義してみたいと思います。

起承転結を定義してみる

つかむ=起

起承転結の起を「つかむ」部分と定義したいと思います。聞く人や見る人の興味を掴む部分という意味です。お笑い芸人が話の冒頭を「つかみ」というのに倣いました。

刑事ドラマでいうと、起は発端ですから、事件が起こって刑事が捜査を開始する部分ということになります。しかし、ありふれた事件をステレオタイプの刑事が追うドラマでは誰も見ません。視聴者にドラマを最後まで見てもらうには、この部分に興味を引く謎やキャラクターとか、愛情のもつれなどの葛藤とか、総じていえばドラマの舞台設定(世界観)をしっかりと仕込んでおく必要があります。起で大事なのは見る人の興味を掻き立てることです。

起を単なる発端・導入と理解しただけでは、たとえばプレゼンやスピーチなどに適用した場合、独りよがりで冗長な説明からはじめても良しということになってしまいます。「起=つかむ」と定義すれば、どんな表現においても、まず最初に受け手の興味を掴むことが大切であるというニュアンスがはっきりします。そういうモノサシで考えれば、起の部分にどんな情報を入れ、どれくらいの長さにするのが適当かは検討しやすくなると思います。

ひろげる=承

起承転結の承を「ひろげる」部分と定義したいと思います。発展させる・展開する部分という意味です。これもお笑い芸人の「話を広げる」という言い方に倣いました。漢詩の起承転結でも、承句は起句を受けて発展させるという意味だそうです。

刑事ドラマでいうと、承はヤマ場の連続ですから、聞き込み・取り調べ・追跡などのシーンということになります。それを通して、謎なら徐々に解けたりさらに深まったり、葛藤なら高まったり緩んだりします。つまり、起で仕込まれたものが発展・展開していきます。

辞書的には承という漢字は「前のものを受け継ぐ」という意味で、訓読みで「承る(うけたまわる)」も「受ける」の謙譲語ですから、発展させる・展開するという言葉にある「ひろげる」というニュアンスは伝わりづらいと思います。でも、起承転結の承が意味するいちばん大事なポイントは「ひろげる」にあると思います。単に前のものを受け継ぐだけでは、受け手の興味を持続させることができないからです。

承で最も避けるべきことは、単純な繰り返しに陥ることです。現実の事件捜査なら、同じような容疑者を何度も取り調べることがあり得るでしょうが、ドラマではストーリー的に意味がない限りそんな繰り返しはやりません。手を変え品を変え進めなければ受け手は飽きてしまいますから、そうならないようシチュエーションやエピソードをひねり出すのが脚本家の仕事です。

これをプレゼンやスピーチに当てはめると、起で提示したテーマを承でひろげるには、ただ情報を追加していくだけでは駄目だということです。同じ情報を伝えるにしても、切り口や視点などを変えれば表現の方法は幾通りもあるはずです。そういう意味では、受け手を飽きさせないような工夫の連続が承だと言えるかもしれません。

もりあげる=転

起承転結の転を「もりあげる」部分と定義したいと思います。何を盛り上げるのかというと感情です。映画の「クライマックス」も歌謡曲の「サビ」も、本質は受け手の感情の高まりです。

転は起と直接つながってないといけません。刑事ドラマの承の部分で刑事のバカンスを差し挟むのはあり得る展開ですが、クライマックスが刑事の結婚などというのは考えられません。事件発生が発端なら、クライマックスは事件の解決になるはずです。起で掴んだ受け手を、転で開放するイメージです。その開放感が大きな情動を生みます。

また、転という字が当てられている(序破急では破にあたる)ことから考えても、それまでの流れから大きく変化する、ギャップを伴う部分だといえます。逮捕の場面で犯人が思わぬ行動に出るのは、刑事ドラマのひとつのパターンです。人は想定内の出来事には心を揺さぶられません。

プレゼンやスピーチを「もりあげる」というと少々違和感がありますが、「感情に訴える」と解釈すれば使えると思います。

たとえばスピーチで、冒頭で聴衆に問いを投げかけ、ひとしきり語った後にその問の答えを明らかにする人がいます。それは刑事ドラマの事件発生→事件解決という構成と同じです。ということは、答えを明らかにするタイミングがスピーチの転=クライマックスですから、それは単なるクイズの解答ではなく、聴衆の心に訴えるものであるべきだということになります。

たたむ=結

起承転結の結を「たたむ」部分と定義したいと思います。承を「ひろげる」としたのに対応させました。「話を畳む」つまり、まとめる部分という意味です。お笑いでいう「オチ」、落語でいう「サゲ」に当たります。

刑事ドラマでは転=クライマックスで事件は解決しているわけですが、そこですっぱり終わることはまずありません。その後に謎や心理の説明シーンがあったり、後日譚があったりしてドラマは終わります。世界観を作るために起で仕込んだ細々としたものにもういちど言及し、一定のケリをつける必要があるからです。ドラマの世界を閉じると言い換えてもいいでしょう。そうしないと受け手は「終わった」ということをすんなり受け入れることができません。

そういう意味で、結は転以上に、起と密接なつながりがあります。起と結は対称の関係にあるといってもいいでしょう。映画やドラマでは、ファーストシーンとラストシーンが同じ場所だったり、カットの構図まで同じだったりすることがよくあります。これは「終わり」を受け手に念押しする結の形式的な性格を表していると思います。

笑い話でいえば、オチが面白いかどうかは、オチ以前のくだりとの兼ね合いで決まります。オチだけを考えてもそれで話が面白くなるわけではありません。逆に「オチがない」という話でも、それなりに楽しめることもあります。関西の漫才には、きれいなオチがなくても演目を終わらせることができる「もうええわ!」というツッコミがあります。

まとめると、結は起承転に従属するもので、かなり形式的な性格が強いといえます。全体を上手くたためるかどうかは、そこまでの展開次第です。ただ、上手くたためなかったとしても、それは作品や話自体の価値を大きく毀損するものではないと思います。

YouTube動画の構成分析

下に引用したのは、マイクロソフトのノートPCを宣伝するYouTube動画です。上で定義した起承転結のモノサシを援用して、この動画の構成を考えてみます。

残念ながら動画が削除されてしまったようです。以下のページに紹介記事があります。

「大学生に、ノートPCはいらない」 日本マイクロソフトによるSurfaceの宣伝広告がインパクトあると話題に
「『大学生』になることが、ゴールの人たち」。
「大学生に、ノートPCはいらない」刺激的な広告文と動画に込めた真意とは? - FNN.jpプライムオンライン
FNN.jp編集部 日本マイクロソフトSurfaceの宣伝広告が「攻めてる」と話題 “大学生あるある”ムービーを制作したのは、現役大学生の映像ディレクター 「秘めた可能性を解き放ち、様々なことに挑戦し

この動画の構成の特徴

この動画は二部構成になっています。1分37秒の尺のほぼ中間で、動画の雰囲気がガラリと変わります。前半分は明るく派手な色調でテレビCM風、後半分は色味をおさえた映画風のタッチです。

内容的には、前半分は後半分の入れ子になっています。前半分の映像は、後半分の主人公である“現役大学生ディレクター”が作った映像という位置づけです。フィクションの中にフィクションを織り込むというメタフィクションの構造です。

前半の動画内動画で言っているのは「今の大学生はノートPC必要としていない」ということです。後半はそれに反論する形で「しかしノートPCがあれば君は何にだってなれる」と言っています。メーカーがノートPCを宣伝するための動画ですから、もちろん伝えたいメッセージは後者です。

この動画をユニークなものにしているのは、自虐的なメッセージを発する動画内動画を、全体の半分の尺を使ってフルスペックで作ったところにあります。本来伝えたいメッセージからすれば、もっと簡潔に短くすることもできたでしょうが、そうしなかったことが逆に動画を面白くしています。

YouTube動画を視聴者が見続けるかどうかは、冒頭の20分で決まります。その観点からも、テンポのいい自虐から始めるアイディアは秀逸だと思います。

動画全体としての起は、「大学生にノートPCはいらない 本当にそうだろうか?」というセリフの終わりまでです(〜0:55)。ここまででこの動画の舞台設定が出揃い、視聴者をつかむ問いが投げかけられます。

内容はこうです。主人公は大学生。彼はノートPCで「実録!僕らのキャンパスライフ」という作品を編集している。大学生の生活をカリカチュアライズしたその映像を見ると、大学生にノートPCはいらないように見える。しかし、本当にそうだろうか。

スマホ全盛の現在、PCの存在感が薄れているのは大学だけではありません。ですから「ノートPCは必要ないのだろうか?」という問いにPCメーカー自身がどういう答えを示すのか、受け手は興味をいだきます。いわばプレゼン的な「つかみ」です。さらに、映像の中の「チャラい」大学生たちとは対照的な主人公がどんな学生なのかにも興味がわきます。こちらはドラマ的な「つかみ」といえます。

ちなみに、動画内動画である「実録!僕らのキャンパスライフ」も、起承転結で分析できます。起はメインタイトル、承はあるあるキャラの列挙、転は集合写真に「大学生に、ノートPCはいらない」、結のかわりに巻き戻し映像でもう一度転を作って後半につなぐ、という感じだと思います。

承はBGMの始まりから2度目の編集シーンまでです(〜1:19)。承の定義は「ひろげる」ことです。この動画では、主人公がどんな大学生で、ノートPC(Surface)を使って何をしているかがテンポよく描かれます。箇条書きにまとめると、

  • Surfaceで写真を撮る
  • その写真を使いSurfaceで絵コンテを作る
  • その絵コンテをSurfaceで仲間に見せる
  • さらにSurfaceをプロジェクターにつないでプレゼンする
  • Surfaceで動画編集する

さらに主人公の紹介カットがインサートされ、「現役大学生ディレクター 清水良広」と字幕が出ます。つまり彼は、本格的に映像制作をおこなっている大学生で、制作の各プロセスでSurfaceをフル活用しているというわけです。

転は主人公が屋上への階段を駆け上がるカットから、アップで「ヨーイ!」と叫んでいる(声はありませんが)ラストカットまでです。屋上へ出るのと同時にBGMも盛り上がります。

屋上で始まろうとしているのは撮影です。スタッフや出演者の人数も多く、機材も本格的、カメラマンの風貌はちょっと大学生っぽくありません。そこで主人公は手にしたSurfaceを指し示しながらスタッフや出演者に指示を出します。そしてナレーションは「その先は、君の手のひらの中から創っていける」。ハッキリとはわかりませんが、おそらくこのクライマックスシーンには、主人公の未来の姿も混じっているのだと思います。

ここでは画面もそれまでとは一転して光に満ちたものになり、主人公のまっすぐ前を見据えたクローズアップと、「解き放て、想像力。」というコピーが盛り上がりの頂点となります。監督やディレクターの専売特許「ヨーイ、スタート!」の「ヨーイ!」でシーンを締めているのも、定番の演出ですが高揚感と未来への期待をあらわしています。

ところで、このクライマックは、起で提示された「大学生にノートPCは必要ないのだろうか?」という問いに答えているでしょうか。意地悪くいえば、ストレートには答えていません。象徴的なドラマと詩的なナレーションがメッセージとして伝えているのは、「クリエイティブな目標があればSurfaceはその手助けになる」ということです。このはぐらかしが気にならないのは、自虐的な動画内動画「実録!僕らのキャンパスライフ」をフルで作ってまず見せるというアイディアによるところが大きいと思います。

「実録!僕らのキャンパスライフ」のクライマックスは、多彩なあるあるキャラが集まって集合写真を撮るシーンでした。その集団と最後の集団、つまり撮影隊は、同じ集団でも本質的に違うものです。前者はそれぞれ個性的ですが、集まって何か一つのものを作り上げるということはしません。それとは対照的に後者の撮影隊は、それぞれが専門の仕事をこなすことでひとつの映像を作り上げる集団です。主人公はそれを率いるリーダーとして描かれています。この対比もうまい演出だと思います。

結は「Microsoft Surface」というロゴとタイトル、そしてそれにかぶせた「サーフェス」という声です。Surfaceを宣伝する動画ですから、これが最も簡潔でわかりやすい終わり方です。

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