技術が陳腐化したとき、名場面は過去のものになるか?

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「市民ケーン」のパンフォーカス

下に引用したのは、名作映画「市民ケーン」(1941年)の「パンフォーカス」を用いたシーン。多くの本に紹介されてきた超有名なシーンですが、今の私たちにはその「すごさ」がわかりにくくなっています。

なぜか。

カメラの性能が飛躍的にあがったからです。

Deep Focus – Citizen Kane

パンフォーカスあるいはディープフォーカスとは、写真または映画の撮影において、被写界深度を深くする事によって、近くのものから遠くのものまでピントが合っているように見せる方法、またはその方法により撮影された写真・映画のこと。絞りを適切に絞ったうえで、焦点を無限遠よりも手前に調整することによって実現される。「パンフォーカス」は和製英語であり、英語では「ディープフォーカス」などと言う。

パンフォーカス-Wikipedia

「パンフォーカス」とは、簡単にいえば画面全体にピントをあわせること。

「市民ケーン」では、遠景である窓外にも近景であるテーブルにもピントが合っています。これは「市民ケーン」製作時には、技術的に難しいことでした。しかし今や、歴史的な説明抜きで「パンフォーカス」に驚く人はいないでしょう。

では、「市民ケーン」のこのシーンは陳腐化したのでしょうか。未だにこのシーンを持ち上げる人たちは、技術オンチかカルト化した映画マニアなのでしょうか。

そうではないと思います。

「パンフォーカスで有名な」という冠が、このシーンのスゴさをわかりにくくしています。「パンフォーカス」は、このスゴいシーンを実現するために必要だった技術に過ぎません。

このシーンでスゴいのは「演技」と「カメラワーク」です。

一連の長いワンカットの間、役者は複雑な演技をしつつ、狭いカメラのフレームから外れることはありません。また同時に、どの一瞬を切り取っても「構図」が崩れることなく保たれています。役者がある立ち位置から別の立ち位置へ移動する場合でも、画面は写真的な美しさを失いません。

まるで、役者たちとカメラマンの、洗練されたダンスのようです。にもかかわらず、映画を見ている観客には不自然さを感じさせません。

これは驚くべきことです。

機械・道具による「技術」はすぐに陳腐化します。しかし、才能と経験による「技術」は、陳腐化することはありません。

「市民ケーン」のこのシーンは、映画の中核をなすといってもいい重要なシーンです。そういうシーンで、撮影監督のグレッグ・トーランドと組んで圧倒的な「技術」を見せつけた25歳のオーソン・ウェルズは、やはり恐ろしい映画監督だというほかありません。

「シャイニング」のステディカム

"The Shining" – steadishot by Garret Brown

ステディカム(英語:Steadicam)とは、カメラマンがカメラを持って歩いたりあるいは車載した際に、その移動によって生じるブレや振動を抑え、スムーズな映像を録ることを目的に開発されたカメラスタビライザー(カメラ安定支持機材)である。 スムーズな移動映像を撮影するためには、それまではレール上の台車やクレーンにカメラを載せて移動するという大掛かりな手段しかなかった。しかし、ステディカムの登場によって、カメラマンが手持ちカメラのまま走ったりしても容易に滑らかでスムーズな移動映像が撮影できるようになった。 映画テレビドラマスポーツ中継、風景や世界遺産の映像作品などの撮影現場まで広く使用されている。

ステディカム-Wikipedia

「シャイニング」(1980年)は、ステディカムを有名にした映画です。

ステディカムはカメラスタビライザーの一種で、ドリーやクレーンを使うことなく、大型のカメラでスムーズな移動撮影を行なうことができる補助機材です。

当時、ステディカムを用いた浮遊感のある映像は、それ自体が驚きでした。

しかし今や、、ステディカムはスポーツ中継などでごく普通に使われる機材です。安価なカメラスタビライザーも多種多様なものが販売されていて、プロアマ問わず人気です。また、「手ぶれ補正」もどんどん進化していて、補助機材なしの手持ちでもかなりスムーズな映像が得られるようになっています。

当時の映画ファンを驚かした「技術」の新鮮さは、完全に陳腐化してしまいました。

しかし一方で、「シャイニング」の評価は下がるどころか、少しずつあがっているようにも感じます(少し前にヒットした「レディ・プレイヤー1」にもでてきましたね)。

「シャイニング」は閉ざされたホテルが主人公ともいえるホラー映画です。誰もいないがらんとした空間に、いないはずの「誰か」を感じてしまう…。それが「シャイニング」という映画が描く恐怖です。

そう考えると、ステディカムによる漂うような映像、すなわち「脚のない」映像ほど、「シャイニング」にふさわしいものはありません

斬新な表現のために新しい技術を求める監督・キューブリックの面目躍如といったところでしょう。

機械・道具による「技術」は例外なく陳腐化するのに対し、その「技術」をうまく用いた「表現」は、陳腐化を免れることが可能です。

そのひとつの例が「シャイニング」だと思います。

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